MONEY TALK

CASE. 03
須田亜香里
アイドル

夢はバックパッカー?握手会の女王がたどり着いた「アイドル」にこだわらないスタンス

今年6月のAKBグループ選抜総選挙で2位に輝いたアイドル・須田亜香里さん。2009年にSKE48のメンバーとしてデビュー、ステージの一番端から始まり、選抜総選挙での浮き沈みを経験しながら、今では名実ともにグループを引っ張る存在に。

歌って踊って可愛いだけじゃなく、王道のアイドルの枠を超えて、バラエティや情報番組のコメンテーターとしてもお茶の間を賑わせている。今年8月には念願の1st写真集『可愛くなる方法』も出版。

弾けんばかりの笑顔での“神対応”に「握手会の女王」の異名を持ち、ファンの間では「努力家」としても知られる須田さん。デビューから今まで、どんな思考と努力を重ねてきたのか? 「アイドル・須田亜香里」の人生をお金をキーワードに紐解く――。

理想のアイドルを演じることをやめて、素の自分をさらけ出す

―― 今年のAKBグループの選抜総選挙で、昨年の6位から9万票をプラスして2位という快挙! 須田さんご自身はその勝因をどのように考えていますか?

テレビで見て私のことを知り興味を持ってくれた方からの1票1票の積み重ねが大きいです。毎年ファンの方が職場や学校で「この子に入れてくれない?」とお願いしてくれるのですが、今年はこれまでで一番頼みやすかったみたいです。

―― バラエティからコメンテーターまで、お茶の間でのご活躍は、鈴木奈々さんもライバル視するほど! テレビ出演をするうえで、意識していることはありますか?

ここ2~3年は、自分をどう見せるかにまったくこだわりがないんです。“アイドル”としてこう見られたいという気持ちがなくなって、“人間”としての素を出しすぎていているくらいで。

これまではこのファン層からの好感度が下がるだろうなと思って言わなかったことも、人にネタにしてもらえて笑ってもらえるなら、本音を言って全部見せてしまおう、と。それで嫌いになる人がいたとしても、仕方ないと思えるようになりました。

―― その変化のきっかけは?

きっかけは、それまでは「なりたい自分」に向かって努力をして、「アイドル・須田亜香里」を演じていたんですが、孤独も感じていたんです。体調を崩さないから「鉄人」とも呼ばれていたんですが、体調を崩さなかったわけではなくて、それでも必死に頑張っていただけ。どんどん弱い自分を見せられなくなっちゃって。

そんななか、2015年の総選挙で選抜落ちをして、その糸がプツンと切れて、演じきれなくなっちゃった。「アイドル・須田亜香里」が剥がれ落ちた瞬間です(笑)。

スピーチでも「なんでこんなに頑張ったのに結果につながらないんだろう」といった本音をこぼして、もうボロボロで。でも、生身の自分をさらけ出したことで、吹っ切れました。

―― その時、アイドルを辞めることを決意されたんですよね。そこからどんな心境の変化が……?

もう「アイドル・須田亜香里」を保てなくなったから辞めなければいけないと本気で思っていて、周りの大人たちにも辞めると言っていたんですが、翌日にもコンサートがあったり、1ヶ月先に仕事の予定が入っていたり。人との約束は断れない性格なので、これだけはやってから辞めようと思っていたら、そのまま半年以上が過ぎていき……。

「しまった!辞めそびれた」と思ったんですが(笑)、その半年は無理してアイドルを演じることなく、“どうせ辞めるし嫌われてもいっか”くらいの気持ちで、「人間・須田亜香里」で仕事をしていたので、楽しかったんですよ。しかも、もっと好きになってくれるファンの人たちもいて、びっくりしました。

自分ではなんで好きになってもらえるのか不思議だったんですが、ダメな自分、弱い自分を隠さなくてもいいんだと思えたんですね。

―― そこから「人間・須田亜香里」としてアイドルを続けることになるわけですね。しかもその結果が、テレビ出演や選抜総選挙2位につながっていく。

こだわりを捨てたことで、アイドルの仕事が楽しくなって、今も続けていますね。

―― アイドルとしてお金を得る=仕事を続けていくために意識していることはありますか?

人間関係ですね。アイドルに関わらず、すべての仕事は人がつくっているものだから、その場その時の人を大事にするしかないんだと思います。

テレビ番組の現場も、誰かに何かを届けようと、ものづくりを一生懸命にやっている人たちの集まりなので、私はその作り手の人たちを信じて、その場を楽しんじゃうことにしています。

自分の見せ方を意識せずに、身を任せたほうが、自分が想像していなかった自分を発見できるし、視聴者の方にも見てもらえる。だから私は、一緒に仕事をする相手を信頼して、その色に染まっちゃおう、と思っています。

―― だから、須田さんにテレビのお仕事が来るんですね。

振り幅が広くなってきているのは、そういうことかもしれませんね。自分にこだわりがないと、相手が自分をネタにして引き出してくれるので、ラッキーだなと思います。

お金と時間をかけてくれるファンに絶対に損はさせない

―― アイドルをしていて、普段、お金を意識する瞬間ってあるんですか?

結構ありますよ。私はアイドルとしての最初の仕事が握手会だったんですが、その時からお金は意識していましたね。握手会に来てくれるファンの方は、お金と時間をかけてくれているので、絶対に損はさせたくない、と。劇場公演も、3,000円のチケット代を払って来てくれるので、ステージに立つ16人ではなく、須田だけを見ても3,000円の価値があったと満足させたいと思っています。ファンの方が払ってくれるお金に対しては、すごく意識しますね。

―― その意識が「握手会の女王」と呼ばれる所以ですね。

握手会はファンの方に会えて嬉しいというのもあるんですが、ファンの方に、かけた時間とお金が無駄になったと思われたくないという気持ちも強いですね。握手会は自分のところに来てくれるのが当たり前ではないので、一度自分を選んでくれた人は手放したくないし、絶対に満足させたいので、全力を注ぎます。

―― 握手会の動画(固定ツイート)からその熱意、伝わってきます。そもそも素朴な疑問なんですが、アイドルの収入の仕組みって……? 握手会は人数による歩合制とかあるんですか?

ないですないです。握手会のお金の動きは私たちに見えないですね。「ひとり来た、チャリーン」とか目の奥がお金になっているアイドルとか嫌じゃないですか(笑)。

収入は年俸制で、期待値というよりは昨年の実績で1年のお給料が決まり、それを12分割してもらっています。その詳細はわかりません。

―― なるほど。アイドルになる時、収入のことが気になったりはしませんでした?

そもそも芸能界への憧れは、バレエを続けるなかで感じたお金への不安だったんです。5歳から13年間バレエを続けてきたんですが、日本でバレエを続けるには果てしなくお金がかかるんですよ。いい役になればなるほどチケット負担が大きくなり、1枚8,000円のチケットを売らなきゃいけない。でも、友人に売ることはできないので、結局配ることになってしまう。いい役が来る時に備えて、アルバイトをしてお金を貯めなきゃと思っていたくらいで。

それと、バレエを続けるなかで心のどこかでお金のことは気になっていたんです。母は一緒に買い物に行っても「ほしいものはない」と買わなくて。「バレリーナのお母さんになることが夢」だと私を支えてくれていました。

母と一緒にバレリーナになることを夢見てきたけど、高校生の時に、頑張れば頑張るほどお金がかかるシステムに違和感を覚えて、バレエから少しずつ心が離れていきました。

―― そこで芸能界への憧れを抱いたんですか?

はじめはモデルに憧れて、『Seventeen』のオーディションにも応募したこともありました。でも、カメラテストであっさり落ちちゃって、向いてないのかなあと。

それでも当時は、バレエ一筋の日々を終わらせる理由を探していて、その選択肢としての「芸能界」を捨てきれなくて。高校3年生の夏、ちょうどAKBが1回目の選抜総選挙で盛り上がっている頃だったので、グループに興味を持って、SKEのオーディションに思い切って応募してみたんです。

―― そして、見事合格。バレエ一筋の人生から、アイドルとしての人生が始まったんですね。

グッチの鞄を2,000円のリュックに。ファン心理を徹底分析

―― アイドルになって、お金に対する考え方とか使い方への変化はありましたか?

やっぱりアイドルはずっと続けられる仕事ではないので、将来のためにも、お金は頑なに使わなかったですね。基本的にすべて貯金しています。

―― 堅実ですね。普段のお金の使い方は……?

お金を使うと言えば、お洋服くらいですね。握手会が月3回あるんですが、ぜんぶ私服で、自分で用意しないといけないんです。同じ服を着ているとファンの方はすぐに気づくので、買い足すようにしています。

あとは最近、後輩におごるようにもなりました。もともとSKEにはおごる文化はなかったんですが、AKBで高橋みなみさんが後輩におごっていて、おごってもらった子がおごるようになって、SKEでもおなじみに。

後輩の間でも「おごってもらった」「おごってもらえなかった」がネタになって、ライブとかでファンの前でオープンにするので、おごったら大歓声、おごらなかったら大ブーイングが起こるんですよ。なので、後輩におごった時は、私への好感度UPのお駄賃として「SNSに書いてね」と言っています(笑)

―― なんと! お金の使い方も仕事に直結していますね。

循環していますね。もともとケチというか、倹約家なので。たとえば、水にお金を払うことは未だに抵抗があって、仕事現場にあるミネラルウォーターは必ず持って帰ります(笑)。

―― 昔から倹約家なんですか?

いや、アイドルになる前、高校生の頃は、私もまさに“名古屋の見栄っ張りで派手好き”な感じで。中高大と女子校だったんですが、“中学2年でヴィトンの財布を持っていないと恥ずかしい”という文化の学校だったんですよ。中学3年の修学旅行では、ヴィトンのボストンバッグがずらりと並ぶような。私たちの頃は禁止になったんでよかったんですけど(笑)。

―― ええ! もちろん親御さんのお金ですよね?

はい(笑)。母もそういう学校だと知っていたので、「買いましょう」と中学2年の時にヴィトンの財布を買ってもらいました。なんだかんだ長持ちするので、長く使えて、いいお買い物でした。

土日に友だちと会う時は、上から下まで舐め回すようにお互いを見て、マウンティングがあって、当時の私は自信家で自分もイケてると思っていたので、バチバチ戦っていましたね。親のお金なので、今思うと本当にありえないんですけど。

―― おお……。そこからアイドルになってどんな変化が?

アイドルになった時に、レッスン場にグッチの鞄で行ったら、女性のスタッフさんに「その鞄を持つのやめなさい」って言われたんです。本当に生意気だったので、「僻んでるのかな?」と思ったんですけど(笑)、「アイドルは応援してもらうことが大切だから、持ち物は質素に、見た目は地味にしなさい」って言われて「たしかに」とすぐに納得しました。

そこからファン心理を分析するようになって、アイドルは自分に対してお金を払ってもらうんだから、高価な物を持っていたら応援したくなくなるな、と。1万円のワンピースは3,000円のものに、グッチの鞄は2,000円のリュックに替えました。

―― 抵抗はなかったんですか?

まったく。人気が出るためならなんでもしようと思っていたので。

―― 助言を素直に受け入れて、ファン心理を分析して、すぐに実行。

アイドルになってから、最初の1回だけスタッフさんが言ってくれる助言を大事にしています。はじめての握手会の時に「自分から手を離しちゃだめだよ」と言われたこととか、ぜんぶ覚えていますね。今はもう言ってもらえないので。

私自身がアイドルに会いに行った経験がなくて、ファン心理がわからないからこそ、スタッフさんをはじめ周りの人の意見やファンの声は全部データとして、自分のなかに取り込んでいます。

―― ファン1人ひとりを分析した11冊以上に及ぶ通称「ダスノート」もあるんですよね。ファンの名前や職業、過去の会話を記録して、ファンの心理を研究されている。

はい。ファンの方がどうすれば喜んでくれるのかは常に意識しますね。そういう意味で、お金の使い方も、シフトチェンジしていきたいなあと思っているところなんです。これまでは、ファンの人たちは幸薄そうな地味でダサめな格好のほうが応援したくなると思っていたんですが、女の子たちのファンも増えてきていて、「その服どこで買ったんだろう」「私もいつかあの鞄を持ってみたい」というような憧れになることも大事だな、と。

そのシフトチェンジが難しいところなんですが……。実は最近、ちょっと高いお買い物をしたんです。

―― お、何を買われたんですか?

高価な鞄を……。お給料で買ったわけではなくて、「くりぃむクイズ ミラクル9」の賞金で、100万円を9人で割って11万円を得るボーナスが2回あって。ほしいなあと思っていた鞄が22万円だったので、思い切って買いました!

目標はひとつに決めない。夢がないからこそ、なんにだってなれる

―― 今後やっていきたいこと、目標はありますか? 

絶対に叶えたいのは、バックパッカーになることですね。

―― 即答で意外なお答え! なぜですか?

私はもともと頑固な性格で、放っておくと、こうするべきだとこだわりが多くなって、ここ以外では生きられないと、どんどん自分の世界が小さくなっていってしまいます。海外で人に関わることで、視野を広げて、自分を成長させたい。無理にでも人に関わらないといけない状態で、困った時に自分はどういう行動をとるのか、新しい自分を知りたいんですよね。アイドルの卒業旅行はバックパックで世界を周るかも。

―― なるほど。やっぱり卒業は意識されていますか?

一度は辞めることを意識して、そのまま続いていますけど。辞めていくメンバーが口を揃えて言うのは、卒業は「今だ」というタイミングが舞い降りるよって。「その時」が来たら私も卒業しようと思っているけど、今のところまだピンと来ない。もうすぐ27歳で、ぼんやり30歳くらいまでは続けたいなあと思っています。AKBグループでまだ30歳まで続けたメンバーはいないので。30歳になっても「その時」が舞い降りなければ続けちゃうかもしれないですね。怖いです(笑)

―― ぜひ。アイドルのその先については、考えています?

今のところはバックパッカーになることだけですね。よく聞かれるんですが、それ以外の答えは持っていないんです。

小さい頃から当たり前のように「夢はなんですか?」って聞かれて、答えられないと何かが欠けているように思われるじゃないですか。でも、アイドルになって、より何かを叶えることは大変なことだと日々実感するし、自分がやりたいと思っていなくても、たまたま挑戦できたこともあります。たとえば、まさか自分がプロレスをやるなんて思ってみなかったですし。自分ではやりたいと思っていなかったけれど、やってみたら楽しかった。

私の性格上、ひとつのことだけを目指すと、世界が狭まってしまうし、叶わなかった時に、生きる意味がないとか言いそうなので(笑)、夢は決めずに、どこに行き着くかを楽しもうと思っています。

―― いいですね。須田さんがどこへ行き着くのか、楽しみです。

ずっと夢がない自分が嫌だったんですが、受け入れられたのは、2つの言葉との出会いがあったからなんです。

ひとつは、今の事務所に入った時に、社長に「夢は何?」って聞かれて「嫌いな質問来た」と思ったんですけど、素直に「ないです」と答えたら「いいじゃん。ないからこそ、なんでもできるよ」と言ってもらえたんです。

もうひとつは、これから進んでいく道を絞っていかなきゃと悩んでいた時、お父さんが「夢は明日変わってもいいんだよ」と言ってくれて。そのふたつの言葉から、夢はなくてもいいんだと、前向きに捉えることができるようになりました。

どんなことをやっていても、無駄になることはないと思うので、やりたいことは一つに決めずに、頑張ります!

須田亜香里 / プロフィール

1991年10月31日 生まれ、愛知県出身。A型。2009年11月1日に行われたオーディションで合格し、18歳でSKE48のメンバーとなる。今年の第10回AKB世界選抜総選挙にて自己最高位の第2位を獲得。現在は東海エリア朝の情報番組「ドデスカ!」(メ~テレ、隔週木曜日レギュラーコメンテーター)や、東海テレビ「スイッチ!」、TBS「サンデージャポン」にコメンテーターとして出演。バラエティ番組でもアイドルの限界に挑戦し続け、活躍の幅を広げる。

ライター:徳瑠里香
写真:きるけ。

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